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高森明勅
2020.12.15 06:00皇統問題

「皇女案」顛末

政府が、皇位の安定継承の在り方を検討する有識者会議の設置を、
検討しているという(産経新聞12月12日付)。
これが事実なら、2つのことを意味しているだろう。

その1つは、先に報じられた「皇女」制度案が、
一先ず取り下げられたこと。

もう1つは、皇位の安定継承への検討をこれ以上、“先延ばし“するのを
断念したらしいこと(こちらは、まだまだ予断を許さないが)。

どうして、このような帰結になったか。
これまでの経過を簡単に振り返っておこう。

11月24日、共同通信と読売新聞が「皇女」制度案をスクープ。
政府は当面、このプランで、皇室典範特例法の附帯決議への対応に
“すり替え”ようと考えていたはずだ。
しかし翌日、参院議員会館で私らの緊急シンポジウム。
そこで「皇女」案を徹底的に批判した(会場での配布資料にも私の「皇女」案
批判ブログを急いで追加)。
間髪を入れず、政界とメディアに“一石”を投じた格好だ。
偶然ながら、まさにグッドタイミング。

25日、早速、波紋が政界に広がり始める。
シンポジウムに参加された玉木雄一郎・国民民主党代表が、
記者会見で「皇女」案を敢然と批判。
これは、その後の展開に繋(つな)がる貴重なアピールだった。

28日、メディアにも動き。
毎日新聞のホームページにシンポジウムの詳報がアップされる。

30日、政界で更に注目すべき動きが。
野党第1党・立憲民主党の枝野幸男代表も、「皇女」案を
明確に批判したのだ。
波紋はより大きくなった。

ここまで来れば、同案を“そのままの形”で国会に回しても、
強い抵抗や紛糾を招きかねない。
そのことがいよいよ明らかな局面に入った。

他のテーマならともかく、皇室に関わる問題では、
そのような事態は何としても避けねばならない。
この時点で、私は「皇女」案が取り下げられる感触を得た。

恐らく大島理森衆院議長も、上皇陛下のご譲位を可能にする
法整備の際の経過を、改めて思い浮かべられたに違いない。
あの時は、民進党(当時)が早々と本格的な「論点整理」を公表。
これによって、大島氏は政府の思惑(おもわく)だけで突き進むことに
危機感を覚えられた。

政府サイドの有識者会議にストップを掛け、国民の代表機関である
国会での合意形成に向けて、自らリーダシップを発揮された。
それが、特例法の円満な成立への、最大の貢献となった。
大島氏は、その“勝利”体験を持っておられる。

12月1日、私の「皇女」案を批判した文章が共同通信から各地の
ブロック紙・地方紙に配信された。

11日、大島議長が記者会見で、(これ以上、先延ばししないで)
菅義偉内閣が責任を持って、皇位の安定継承について解決すべきことを表明。
政府に対し、附帯決議で言及された女性宮家などの検討を、求められた。

波紋の広がりはほぼピークに達した。
このタイミングで、政府はメディアに対して、「皇女」案は検討して“いない”、
と回答。
同日、私は「テレ東ニュース」で「皇女」案を解説し、皇位の安定継承には
繋(つな)がらず、附帯決議へのアンサーになっていないことを指摘した
(同日、YouTubeにアップ)。

12日、政府が新たに有識者会議の設置を検討しているとの報道。
政府が当初、狙っていたシナリオは、ハッキリ躓(つまず)いたと見てよいだろう。
勿論(もちろん)、民間の非力な私らが、政府の動きを直接、止められるはずがない。

しかし、“小さな石ころ”を投げる位のことは出来る。
客観的に言って、それが、玉木代表の勇気ある反対表明を引き出す
キッカケになったことは、確かだろう。
シンポジウムの翌日というタイミングだけでなく、反対論のロジックの構成からも、
そう受け止めてよいはずだ。

その玉木氏の表明がなければ、枝野氏が明確な反対に踏み切れたか、どうか。
枝野・玉木両党首の反対論が表面化していなければ、大島議長の態度も、
もう少し違っていたかも知れない。

大島氏の、附帯決議の趣旨を貫こうとされる、毅然(きぜん)とした
姿勢こそ、政府に「皇女」案の取り下げを迫る決定打になったことは、
ほぼ間違いないだろう。

今回の経緯を振り返ると、予想していたより速やかに、
困難と思われた成果を生み出すことが出来たかも知れない。
少なくとも、私らが全く無力な訳ではない、と考えることは許されるだろう。
特に、普遍性と説得力のあるロジックを提出することの大切さを、感じる
(特例法の時にも痛感したが)。

だが、まだ楽観は出来ない。
後ろに駆け出そうとしていた政府を、やっと本来のスタートラインに
引き戻したに過ぎないからだ。
これからが、まさに正念場だ。
今こそ、サイレント・マジョリテイーからボーカル・マジョリテイーへ。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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